認知症サポートの道

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認知症の【周辺症状】(BPSD)行動と心理の対応策と最新研究まとめ

こんにちは。今回は、認知症の周辺症状(BPSD)について、最新の研究や実践的な対策を紹介しています。認知症は、記憶や判断力などの認知機能の低下を引き起こす病気ですが、それだけではありません。認知症には、うつや不安、幻覚や妄想などの心理的な症状や、食欲不振や失禁などの身体的な症状も伴います。これらの周辺症状は、認知症の進行や治療に影響を与えるだけでなく、患者さんや家族の生活の質を低下させる原因にもなります。そこで、この記事では、周辺症状の原因や特徴や改善の方法などを分かりやすく解説していきます。認知症に関心のある方はぜひお読みください。

 

1|認知症の【周辺症状】(BPSD)とは

BPSDとは何でしょうか?BPSDとは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略で、日本語では認知症行動・心理症状と訳されます。認知症の方が見せるさまざまな行動や感情の変化を指します。認知症周辺症状とは、精神や行動に現れる二次的な症状のことです。【問題行動】【行動障害】といわれる行動面の症状、情緒面や随伴精神症状などの心理面の症状が含まれます。これらは、記憶障害や判断力の低下などの中核症状に加わるもので、脳の変化によって引き起こされます。

しかし、個人差が大きく、認知症の原因や進行度合いによっても異なります。例えば、アルツハイマー認知症では、初期には不安や抑うつが多く見られ、中期には妄想や幻覚が出やすくなります

。周辺症状は、本人と介護者の双方にとって大きな問題となります。本人は、自分の周りの状況を正しく理解できず、自分の気持ちを表現できず、自分の意思で物事を判断できずに苦しむことがあります。介護者は、本人の不安定な様子に対応することが困難であり、心身的にも消耗することがあります。

 

 

 2-1|周辺症状の原因

BPSDは、認知症の本人や周りの人や環境によってさまざまな原因があります。

BPSDの原因には、次のようなものがあります。

  • 遺伝子:認知症になると、脳の細胞や神経の働きが悪くなりますが、これは遺伝子にも関係しています。たとえば、APOEという遺伝子は、アルツハイマー認知症レビー小体型認知症になりやすい人や進行が早い人に多いことがわかっています。
  • 心の状態:認知症の方は、自分のできることや覚えていることが少なくなっていくことに気づいて、心配や怖さ、寂しさなどを感じることがあります。これらの気持ちは、BPSDを引き起こすストレスになります。
  • 住んでいる場所:認知症の方は、家や施設などの住んでいる場所によってもBPSDを起こしやすくなります。たとえば、音がうるさかったり、暑かったり寒かったり、暗かったり明るすぎたりすると、心配や混乱を感じます。また、家具や物が多すぎたり少なすぎたりすると、落ち着きません。
  • 人との関係:認知症の方は、家族や介護者や友達などとの関係によってもBPSDを起こしやすくなります。たとえば、話し方や態度が合わなかったり、仲良くできる人がいなかったりすると、不満や怒りを感じます。

 

 1-2|周辺症状への対応策

周辺症状への対応策としては、薬物治療と非薬物治療があります。薬物治療では、抗精神病薬抗うつ薬などを用いて精神的な不安定さを抑えることができます。しかし、副作用や依存性に注意する必要があります。非薬物治療では、音楽や絵画などの心理的介入や、ストレスの少ない物理的・時間的環境を整えることが有効です。また、本人の気持ちを受け止めて傾聴することや、感情的にならずに冷静に対応することが大切です。周辺症状は、認知症の人の生活の質を低下させるだけでなく、介護者の負担やストレスも増やします。そのため、早期に発見し、適切な対応を行うことが重要です。

2|周辺症状における行動面の症状・心理面の症状

認知症は、その影響が患者だけでなく周囲にも及ぶ疾患です。本記事では、認知症患者の周辺症状が引き起こす行動面と心理面の変化に焦点を当てます。

徘徊、暴力、睡眠障害、食行動といった行動面の症状が日常生活に及ぼす影響とその理由に迫ります。また、抑うつ、不安、幻覚、妄想といった心理面の症状が患者の心に及ぼす影響と、これらの症状がどのようにして現れるのかを考察します。

この項を通じて、認知症の周辺症状の理解が深まり、患者やその家族、介護者にとって有益な情報を提供できることでしょう。認知症の複雑な側面に光を当て、その対処法や支援の在り方についても触れていきます。

 2-1|周辺症状の行動面

  【徘徊】

認知症の方は、認知機能の低下や精神的要因により、自宅からいなくなることがあります。これを徘徊といい、患者さんや家族にとって危険や負担をもたらします。徘徊の背景には、記憶障害や見当識障害という症状や、認知症の方の気持ちや思い出が関係しています。そのため、徘徊を防ぐためには、患者さんの認知機能を維持することや、不安やストレスを解消することが必要です。

具体的には認知症の方の「自宅(現在住んでいるところ)からいなくなる」という行動は、基本的に「誰かを探しに行く」「家に帰る」「要件を思い出す」などのパターンが原因として考えられます。

徘徊行動による移動先の予測はつきにくく、対応は難しいです。また、街中を徘徊している際に当人は交通ルールを守っていることも多いので、「ふらふら」した様子には見えず、徘徊していることが周囲には気づかれないことがあります。しかし、完全に防ぐことはできなくても、予防や対策をすることは可能です。以下にいくつかの方法を紹介します。

  • 高齢者の気持ちや状況を理解し、話を聞いたり、気分転換をしたりする
  • 高齢者に適度な運動や趣味をさせ、ストレスやエネルギーを発散させる
  • 高齢者に身分証明書や連絡先を持たせ、服や靴に名前や住所を書く
  • 迷子札やGPS機能付きの時計などの製品を利用する

以上が、徘徊行動に関する基本的な知識と対策です。徘徊行動は介護者にとって大きな悩みですが、高齢者の立場に立って対応することが大切です。また、自分一人で抱え込まず、家族や友人、専門家などに相談したり、支援を受けたりすることも忘れないでください。

  【暴力】

認知症周辺症状行動面における暴力とは、認知症の方が自分や他人に対して身体的な攻撃や威嚇を行うことです。 これには、殴る、蹴る、引っ掻く、噛む、突き飛ばす、物を投げるなどの行動が含まれます。

認知症の方が暴力をふるう原因は様々ですが、以下のようなものが挙げられます。

  • 脳の機能低下により感情をコントロールできなくなる
  • 現実や周囲の人々を認識できなくなり不安や恐怖を感じる
  • 自尊心やプライドが傷つけられたと感じる
  • 体調不良や痛みを訴えられない
  • 認知症のタイプによって脳の障害された部位が異なる

また、暴力は以下のような場面で起こりやすいことがわかっています。

  • 入浴や排泄などプライベートなケアを受ける時
  • 外出や通院など日常生活から離れた場所に行く時
  • 物盗られ妄想や幻覚などの精神的な苦しみを感じる時
  • 睡眠不足や食欲不振などの身体的な不調がある時

認知症周辺症状行動面における暴力への対応

認知症の方が暴力をふるった場合、介護者は以下のような対応を心がけましょう。

暴力が起きたとき

  • 自分や他人の安全を確保する。必要であれば助けを呼ぶ
  • 暴力を止めようとせず、距離を置く。興奮したご本人に話しかけたり触ったりしない
  • 冷静にご本人の様子を観察する。暴力の原因やトリガーを探る
  • 暴力が収まったら、優しく声かけをする。ご本人の気持ちを受け止めて安心させる
  • 暴力の理由や内容を記録する。医師やケアマネジャーに報告する

暴力を予防するため

  • ご本人の日常生活リズムや好みに合わせてケアプランを作成する
  • ご本人に何かをさせたり教えたりするときは、尊重や信頼を示す
  • ご本人の不安や恐怖を軽減するために、状況を丁寧に説明したり、声かけをしたりする
  • ご本人の体調や食事、排泄、睡眠などをチェックする。痛みや不調がないか確認する
  • ご本人の薬の種類や量を見直す。医師に相談する

暴力によるストレスを軽減するため

  • 暴力に対して自分を責めたり、恨んだりしない。ご本人は病気のせいで暴力をふるっていることを理解する
  • 暴力による感情的な傷を癒すために、誰かに話したり、日記に書いたりする
  • 自分の時間や趣味を大切にする。気分転換やリフレッシュをする
  • 必要であれば介護サービスや施設を利用する。介護負担を軽減する

認知症の方が暴言や暴力をふるうことは、介護者にとって辛く苦しいことですが、一人で抱え込まずに、専門家や仲間に相談しましょう。 ご本人の暴力の原因や特徴を理解し、適切な対応をすることで、暴言や暴力の回数や程度を減らすことができます。

  【睡眠障害

認知症の方は、記憶力や判断力の低下だけでなく、睡眠障害もよく見られる症状の一つです。睡眠障害は患者の生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、家族やケアギバーの負担を増やす原因となります。

睡眠障害には、寝つきが悪い「入眠障害」、途中で目が覚めてしまう「中途覚醒」、早朝に目が覚めてしまう「早期覚醒」などがあります。認知症の方に多く見られる昼夜逆転も、夜間にきちんと眠れないために起こる睡眠障害のひとつです。

睡眠障害が起こる原因は、加齢による体内時計の機能低下やメラトニン分泌の減少、認知症による見当識障害や不安感、薬物の影響などが考えられます。

また、認知症のタイプによっても睡眠障害の特徴は異なります。例えば、アルツハイマー認知症では初期から睡眠・覚醒リズムが崩れやすく、昼夜逆転を起こしやすいです。レビー小体型認知症では初期にレム睡眠行動障害という睡眠中に大声で叫んだり暴れたりする症状が現れます 。

睡眠障害への対策としては、以下のようなことが有効です。

  • 日光を浴びる:午前中に日光を浴びることで体内時計を整えることができます。
  • 就寝環境を整える:夜は明かりを落とし、静かで快適な環境を作ります。本人が不安に感じない程度に暗さを調整します。
  • 規則正しい生活サイクルをつくり、活動量を増やす:日中は適度に運動や趣味などで活動し、夜はぐっすり眠れるようにします。毎日同じ時間に起床・就寝することも大切です。
  • 寝る前にはトイレに連れて行く:夜間の頻尿や失禁が不安を引き起こさないようにします。必要であればポータブルトイレを設置します。
  • 不安感を解消する:認知症の方は不安を感じやすいので、優しく声かけしたり抱きしめたりして安心させます。
  • 服薬中の薬について確認する:薬物の影響で睡眠サイクルが乱れる場合があるので、医師の指示に従って服用します。不明点があれば医師に相談します。
  • 医師に相談する:家庭内の努力で問題解決しない場合は、医師に相談してみます。睡眠リズムを整えるための入院や睡眠薬の処方などが必要な場合があります。

睡眠障害認知症の症状の一つですが、放置しておくと悪化するだけでなく、他の症状や介護者の負担にも影響を及ぼします。早めに対策を講じて、認知症の方のQOLを向上させましょう。

  【食行動】

認知症の人は、脳の機能が低下すると、食事に関する問題が起こりやすくなります。例えば、食事中に集中力がなくなったり、食欲が減退したりして、必要な量や栄養を摂取できないことがあります。これは、健康に悪影響を及ぼす可能性が高くなります。また、味覚や嗅覚の変化によって、刺激の強い食べ物を嫌がったり、食べ物に対して不合理な思い込みをしたりすることがあります。これは、食事を拒否したり、不安や恐怖を感じたりする原因になる可能性が高くなります。これらの問題は、脳が食べ物の情報を正しく処理できなくなるために起こります。

認知症の人の食行動の問題は、介護者にとってもストレスです。介護者は、認知症の人の食事に関する知識と理解を持ち、適切な対応を心がける必要があります。

認知症の人は、自分自身の体調を正しく把握できないこともあります。そのため、お腹が空いていたり、脱水状態や便秘だったりしても、自分で気づかないままになってしまうこともあります。

そうなると、身体的な問題が悪化し、痛みや不快感を感じるようになることもあります。その結果、怒りっぽくなったり、攻撃的な言動をとったりすることもあります。

認知症の人の怒りや攻撃的な言動は、本人がわざとしているわけではありません。身体的な問題からくる無意識的な反応であることも多いです。

そのため、介護者は、本人の体調に気を配り、身体的な問題を早めに見つけて対処することが大切です。また、本人の感情や行動を理解し、穏やかに接するように努めましょう。

 2-2|周辺症状の心理面症状

  【抑うつ

認知症の方は、記憶力の低下や日常生活の困難さなどによって、気分が落ち込んだり、意欲がなくなったりすることがあります。これを「うつ」または「抑うつ」と呼びます。うつは認知症の周辺症状(BPSD)の一つで、認知症の方の約3割に見られると言われています。

うつは認知症の方にとっても、介護者にとっても大きな負担になります。うつの方は、自分の状態を受け入れられずに苦しんだり、自殺願望を持ったりすることもあります2。介護者は、うつの方に対してどう接したら良いかわからずに困惑したり、イライラしたりすることもあります。

そこで、うつの特徴と対応方法を知っておくことが大切です。以下では、認知症うつ病の違いや、認知症の種類ごとによく見られるうつの症状、介護者ができる具体的な対応策などを紹介します。

認知症うつ病の違い

認知症うつ病は、どちらも高齢者に多く見られる精神的な障害ですが、原因やメカニズムが異なります。認知症は脳の神経細胞が損傷して認知機能が低下するもので、うつは脳内の神経伝達物質が不足して気分が落ち込むものです。

認知症うつ病は以下のような点で区別できます。

  • 認知症では記憶障害が主要な症状であり、自分が忘れていることに気づかないことが多い。うつ病では記憶力が低下することもあるが、自分が忘れやすくなったことを自覚している。
  • 認知症では理解力や判断力が低下し、見当はずれな返答をすることがある。うつ病では理解力や判断力はある程度保たれており、「わかりません」という返答をすることが多い。
  • 認知症では無関心や無表情が目立ち、自分の状態を悲観したり自責したりすることは少ない。うつ病では自分を責めたり否定したりすることが多く、自殺願望を持つこともある。
  • 認知症では徐々に進行していくものであり、特にきっかけや原因がないことが多い。うつ病では突然発症することもあり、ライフイベントやストレスなどがきっかけになることもある。

ただし、認知症うつ病は併発することもありますので、専門の医師による診断が必要です。自己判断せずに、医療機関を受診しましょう。

認知症の種類ごとのうつの症状

認知症にはさまざまな種類がありますが、うつの症状は認知症の種類によって異なります。以下では、主な認知症の種類ごとに、うつの症状の特徴や発生率を紹介します。

アルツハイマー認知症

アルツハイマー認知症は、認知症の中で最も多いタイプで、全体の約6割を占めます。このタイプでは、うつは初期から中期にかけてよく見られる周辺症状です。

アルツハイマー認知症におけるうつの特徴は以下の通りです。

  • 記憶障害や見当識障害などの中核症状に気づいて不安や恐怖を感じることが原因でうつになることが多い。
  • うつは軽度から中等度であり、自殺願望や自責感はあまり強くない。
  • うつは一過性であり、時間や場所によって変動することが多い。
  • うつは日中に強くなり、夕方や夜に軽減することが多い。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、認知症の中で2番目に多いタイプで、全体の約1割から2割を占めます。このタイプでは、うつは初期から中期にかけて最も多く見られる周辺症状です。

レビー小体型認知症におけるうつの特徴は以下の通りです。

  • 幻視や幻聴などの精神症状や身体機能の低下などが原因でうつになることが多い。
  • うつは重度であり、自殺願望や自責感が強くなることがある。
  • うつは持続性であり、時間や場所による変動は少ない。
  • うつは夕方や夜に強くなり、日中に軽減することが多い。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳梗塞脳出血などの脳血管障害が原因で起こるタイプで、全体の約1割を占めます。このタイプでは、うつは初期から中期にかけて比較的多く見られる周辺症状です。

  【不安】

認知症の人は、記憶力や判断力などの認知機能が低下することで、自分の置かれた状況や将来に対して不安を感じるようになります。また、周囲の人や物が認識できなくなったり、幻覚や妄想が生じたりすることで、不安が増幅されることもあります。不安は、他の周辺症状の背景要因にもなるため、早期に察知して適切な対応をすることが大切です。

認知症の人の不安には、以下のような特徴があります。

  • 不安は個人差が大きく、その原因や表現もさまざまです。例えば、自分の身体や健康に関する不安、家族や友人との関係に関する不安、自分の居場所や生活に関する不安などがあります。
  • 不安は時間帯や場所によって変化します。特に夕方から夜間にかけて不安が高まることが多く、夜間せん妄という周辺症状を引き起こすこともあります。
  • 不安は言葉で伝えられないことが多く、身体的な反応や行動で表れます。例えば、動悸や発汗、震えなどの自律神経反応や、落ち着きがなくなったり、物を隠したり、徘徊したりするような行動です。

では、認知症の人の不安に対してどう対応すればよいでしょうか。以下にいくつかのポイントを挙げます。

  • 不安の原因を探る。認知症の人は自分の不安を言葉で伝えられないことが多いため、介護者は観察力や想像力を働かせて不安の原因を探らなければなりません。例えば、身体的な不調や環境の変化、生活リズムの乱れなどが不安の原因になっている可能性があります。
  • 不安を受け止める。認知症の人は自分の不安を理解してもらえずに孤立感や無力感を感じることがあります。介護者は認知症の人の気持ちを否定したり諭したりせずに、優しく受け止めてあげることが大切です。例えば、「不安だね」「大変だね」と声をかけたり、「一緒にいるよ」と手を握ったりすることで安心感を与えることができます。
  • 不安を和らげる。認知症の人は自分で不安をコントロールすることが難しいため、介護者は適切な方法で不安を和らげてあげる必要があります。例えば、リラックスできる音楽や香りを用意したり、好きなものや思い出話を話題にしたりすることで気分を転換させることができます。また、適度な運動や日光浴などで生活リズムを整えることも不安の予防に役立ちます。

認知症の人の不安は、介護者にとっても大きな負担になります。しかし、不安は認知症の人の心の叫びであり、無視することはできません。介護者は認知症の人の不安を理解し、寄り添い、支えることで、認知症の人のQOL(生活の質)を高めることができます。そのためには、介護者自身も自分の心身のケアを怠らず、必要ならば専門家や支援団体などに相談することが大切です。

  【幻覚】

幻覚とは、実在しないものが見えたり聞こえたりする現象のことです。認知症の方は、脳の機能が低下しているため、幻覚を起こしやすくなります。特にレビー小体型認知症では、幻覚が初期から現れることが多くあります。

幻覚には以下のような種類があります。

  • 幻視:見えないものが見える。例えば、家の中に知らない人や動物がいると感じる。
  • 幻聴:聞こえない音や声が聞こえる。例えば、亡くなった人や自分の悪口を言う声が聞こえる。
  • 幻味:口の中に何も入っていないのに味がする。例えば、苦い味や金属味がする。
  • 幻臭:匂いのないところで匂いを感じる。例えば、花の香りや腐った匂いがする。
  • 体感幻覚:身体に何も触れていないのに触感を感じる。例えば、虫が這っていると感じる。

幻覚は本人にとっては現実感を伴う体験であり、不安や恐怖を感じることもあります。そのため、介護従事者としては、以下のような対応方法を心がけましょう。

  • 幻覚を否定しない:「そんなものはいない」と言ったり怒ったりしないでください。本人は信頼されていないと感じてしまいます。
  • 幻覚を肯定しない:「ほんとだね」と言って同調したりしないでください。本人は幻覚が正しいと思ってしまいます。
  • 幻覚に共感する:「子どもたちが来てくれて楽しいね」と言って気持ちを受け止めたり、「鎧武者が怖かったね」と言って安心させたりしてください。本人は理解されていると感じます。
  • 幻覚の原因を探る:幻覚は体調や環境によって起こりやすくなることがあります。水分や栄養は足りていますか?部屋は明るくしていますか?壁にシミや傷はありませんか?などチェックしてみてください。
  • 医師に相談する:幻覚は薬で改善する場合があります。幻覚が頻繁だったり、興奮したりする場合は医師に相談してください。

以上、認知症周辺症心理面症状における幻覚の特徴と対応方法についてでした。幻覚は本人だけでなく家族や介護者にも大きな負担となります。しかし、適切な対応をすれば、幻覚の影響を軽減することができます。認知症の方と接するときは、幻覚に対して理解と共感を持って、安心できる関係を築いていきましょう。

  【妄想】

認知症周辺症とは、認知症に伴って起こる心理面や行動面の症状のことです。認知症周辺症の中でも、特に介護者にとって困難なのが【妄想】です。妄想とは、現実とは異なる信念や思い込みを持ち、それを強く主張することです。妄想は、認知症の進行や脳の変化によって引き起こされる場合もありますが、介護者や周囲の人の対応によっても悪化する可能性があります。

妄想の特徴は以下の通りです。

  • 現実とは異なる内容である
  • 論理的に説明できない
  • 根拠がないか、非常に弱い
  • 本人は自分の信念に確信を持っている
  • 他人の説得や反論に耳を貸さない
  • 時間が経っても変わらないか、強くなる

妄想の内容はさまざまですが、よく見られるものは以下のようなものです。

  • 身内や介護者が自分を裏切ったり、虐待したりしていると思う
  • 自分の家や部屋ではないと思う
  • 自分の財産や物品が盗まれたり、すり替えられたりしていると思う
  • 自分に恋愛感情を持つ人がいると思う
  • 自分が有名人や偉人だと思う

妄想に対する介護者の対応は、以下の点に注意してください。

  • 妄想を否定したり、論理的に反論したりしない。それは本人を不安や怒りにさせるだけでなく、信頼関係を損なう可能性があります。
  • 妄想を肯定したり、共感したりしすぎない。それは本人の妄想を強化することになります。
  • 妄想の内容に関係なく、本人の感情や気持ちに寄り添う。例えば、「不安だね」「怒っているんだね」「大変だね」と言って安心させたり、気分転換させたりする。
  • 妄想が起こる原因やトリガーを探る。例えば、生活環境や日常生活の変化、ストレスや不安、孤独や退屈などが影響している場合があります。
  • 妄想が起こらないように予防する。例えば、本人に適度な刺激や活動を提供したり、社会的な交流を促したりする。
  • 妄想が強くて介護が困難な場合は、医師や専門家に相談する。薬物療法心理療法などが必要な場合があります。

以上が【妄想】の特徴と対応についての説明です。認知症周辺症は、介護者にとっても本人にとっても大きな負担ですが、適切な知識と対応で、少しでも軽減できるように努めましょう。

 2-3|物盗られ妄想

物盗られ妄想とは、どんな症状なのでしょうか?認知症の方が、自分が置いたものを忘れてしまって、他の人が盗んだと思い込むことがあります。これは、記憶障害が原因で、自分がどこに何をしまったか覚えていないからです。例えば、財布や鍵などの大切なものを見つけられないときに、「泥棒が入った」「嫁が盗んだ」などと言って、周りの人に責めることがあります。このように、自分の気持ちに確信を持っていて、誰の言葉も信じない様子を物盗られ妄想と呼びます。

物盗られ妄想に対する介護のポイントは、以下の通りです。

  • 説得や否定はしない。物盗られ妄想は、認知症の方の不安や恐怖からくるものです。そのため、しまった場所を教えたり、盗まれた形跡がないことを指摘したりしても、納得してくれません。むしろ、反発や怒りを招くことがあります。そこで、説得や否定はせずに、まずは相手の気持ちを受け止めてあげることが大切です。「困ったね」「心配だね」と声をかけて、共感してあげましょう。
  • 落ち着かせる工夫をする。物盗られ妄想は、不安や恐怖からくるものですから、落ち着かせる工夫をすることが効果的です。例えば、好きな音楽や香りを流したり、手を握ったりしてリラックスさせたり、話題を変えて気分転換させたりしましょう。また、物盗られ妄想が起きやすい時間帯や場所に注意して、事前に予防することも大切です。
  • 探す手伝いをする。物盗られ妄想は、記憶障害が原因で起きるものですから、探す手伝いをすることで解決することもあります。ただし、探す手伝いをするときは、「探してあげる」と言わないようにしましょう。それでは、「自分は無能だ」と感じさせてしまうかもしれません。「一緒に探そう」と言って、相手に協力的な姿勢を見せることが大切です。

物盗られ妄想は、認知症の方にとっても介護者にとっても辛い症状です。しかし、その背景にある不安や恐怖を理解してあげることで、少しでも和らげることができます。介護者自身もストレスにならないように気をつけてくださいね。

 2-4|反響言語

  【反響言語とは】

反響言語とは、自分で考えた言葉ではなく、相手が話した言葉や聞いた音をそのまま繰り返すことです。たとえば、「おはよう」と声をかけると、「おはよう」と返す、といった具合です。反響言語には、以下のような種類があります。

  • エコラリア:相手が話した言葉をそのまま繰り返すこと。
  • エコプラキシア:相手がした動作をそのまま真似すること。
  • パラコプラキシア:相手がした動作を似たような動作で真似すること。
  • パラコプラリア:相手が話した言葉を似たような言葉で繰り返すこと。

反響言語は、認知症の方だけでなく、自閉症やチック症などの発達障害や神経障害のある方にも見られる現象です。しかし、認知症の場合は、脳の機能低下によって起こるものであり、治療や対処法も異なります。

  【反響言語の原因】

認知症の方が反響言語を起こす原因には、以下のようなものが考えられます。 

  • 失語症:言葉を理解したり話したりする能力が低下すること。自分の思ったことや感じたことを適切な言葉で表現できなくなるため、相手の言葉をオウム返しにすることでコミュニケーションしようとする場合がある。
  • 見当識障害:自分がいる場所や時間、人物などを正しく把握できなくなること。周囲の状況に不安や恐怖を感じるため、相手の言葉をオウム返しにすることで安心感を得ようとする場合がある。
  • 幻視・妄想:実際には存在しない人や物が見えたり、起きていないことが起きたように感じたりすること。自分の見聞きしたものや思い込んだものを真実だと信じてしまうため、相手の言葉をオウム返しにすることで確認しようとする場合がある。
  【反響言語の対処法】

反響言語は、本人にとっても周囲にとってもストレスになりやすい症状です。しかし、反響言語を起こす本人は、自分の意思や感情を伝えたいという気持ちがあるのです。そのため、以下のような対処法を心がけることが大切です。

  • 落ち着いて話を聞く:反響言語を起こしているときは、本人が混乱している可能性が高いです。そのため、怒ったり責めたりせずに、落ち着いた態度で話を聞くことが重要です。相手の言葉をオウム返しにするのではなく、自分の言葉で返事をすることで、本人に理解されやすくなります。
  • 本人の話を否定しない:反響言語の原因には、幻視や妄想などがあります。その場合、本人は自分が見聞きしたものや思い込んだものを真実だと信じています。そのため、本人の話を否定すると、本人は混乱や不安を感じてしまいます。そうではなく、本人の気持ちや不安を受け止めてあげることが大切です。
  • 不安や恐怖を和らげる:反響言語の原因には、見当識障害などがあります。その場合、本人は周囲の状況に不安や恐怖を感じています。そのため、本人に安心感を与えることが必要です。例えば、好きな音楽や写真などを見せてあげたり、優しく触れてあげたりすることで、本人の気持ちを落ち着かせることができます。
  • 体調を確認する:反響言語の原因には、失語症などがあります。その場合、本人は体調不良などを適切な言葉で伝えられません。そのため、反響言語が続く場合は、本人の体調を確認する必要があります。例えば、「苦しい?」「痛い?」などと短く質問したり、「どこ?」と聞いて指さしてもらったりすることで、本人の状態を把握することができます。
  • 反響言語の状況やパターンを把握する:反響言語は、本人にとっても周囲にとってもストレスになります。しかし、反響言語は無意味なものではありません。本人は何かを伝えようとしています。そのため、反響言語が起こる時間帯や状況などを把握することで、本人の訴えや不快感を理解しやすくなります。

反響言語は、認知症の方が自分の意思や感情を伝えようとする現象です。周囲の方は、怒ったり責めたりせずに、本人の話を聞いてあげることが大切です。

3|認知症の人が意欲を高めるために

認知症の人の介護をするときには、意欲や活動性の低下にどう対応するかが重要です。意欲や活動性が低下すると、認知症の人は自分の能力や価値を見失ってしまい、さらに症状が悪化する可能性があります。そこで、以下のような対応をおすすめします。

 3-1|さまざまな活動に参加させる

認知症の人には、自分の興味や趣味に関連する活動を提供してあげることが大切です。例えば、音楽や絵画、手芸などの芸術的な活動や、運動やゲームなどの身体的な活動などがあります。これらの活動は、認知症の人の感情や記憶を刺激し、自己表現やコミュニケーションの機会を増やします。また、活動に成功したときには、自信や達成感を感じることができます。

 3-2|外出を促す

認知症の人には、外出することも有効です。外出することで、認知症の人は自然や社会と触れ合い、新しい刺激を受けることができます。また、外出することで、日常生活のリズムやサイクルを整えることもできます。例えば、朝日を浴びることで、睡眠リズムを調整したり、季節感を感じたりすることができます。外出する際には、認知症の人の体力や安全に配慮し、適切な目的地や時間帯を選ぶことが必要です。

 3-3|できることを見つけて発揮させる

認知症の人には、自分ができることを見つけてあげることも重要です。認知症の人は、自分ができなくなったことに焦点を当ててしまいがちですが、それでは意欲が低下してしまいます。そこで、認知症の人が以前に得意だったことや好きだったことを思い出してあげたり、今でもできることを探してあげたりすることが効果的です。例えば、家事や仕事などの日常的なタスクや役割を与えたり、ペットや植物などの世話をさせたりすることがあります。これらのことは、認知症の人に自分にも役割や責任があるという意識を持たせたり、必要とされているという感覚を与えたりします。

以上が意欲や活動性の低下への対応方法です。認知症の人には、自分らしく生きる権利があります。介護者はその権利を尊重し、認知症の人の意欲や活動性を高めるような働きかけを心がけましょう。

 

4|認知症の周辺症状に関する研究について

認知症は発症そのものを完全に防ぐことは難しいですが、発症や進行を遅らせることが可能だということが分かってきました。認知症の発症に至るまでの間には「前段階」があります。この時期に何らかの手を打っていけば、発症や進行を遅らせることが可能だと考えられています。特にアルツハイマー病については、40代から50代の方々が対策を考えるのが重要だということです。

最新の研究から、認知症を進行させる危険因子が分かってきました。改善可能とされる12の危険因子を改善していけば、最大で認知症になる人の40%は、発症や進行を遅らせられる可能性があると考えられています。具体的な予防策としては、生活習慣病を治すことや聴力低下の改善、お酒とたばこの抑制、適切な睡眠、対人ゲーム、運動などが挙げられます。

 4-1|認知症の病因「タウタンパク質」が脳から除去されるメカニズムを解明

タウは、アルツハイマー病をはじめとする様々な神経変性疾患で脳に蓄積して、神経細胞の死を招く、認知症の原因となるタンパク質です。タウが脳内から除去される仕組みを明らかにすることが認知症の発症予防に繋がると考えられています。

脳内では、グリアリンパ系(グリンパティックシステム)と呼ばれる機構が、細胞外での流れを生むことで、脳内で生じた老廃物を効率的に脳外へと除去していることが知られています。研究チームは、マウスを用いた実験でグリアリンパ系で駆動される細胞外の体液の流れに乗って、タウが血管周囲の間隙を通って脳脊髄液に移動し、その後、頚部のリンパ節を通って脳の外へ除去されていることを発見しました。またこの過程にアクアポリン4というタンパク質が関与しており、アクアポリン4を欠損したマウスではタウの除去が抑制され、タウの蓄積や神経細胞死が亢進したこともわかりました。

このタウの除去機構を促進することが可能となれば、タウの蓄積や神経細胞死を防止し、アルツハイマー病などの様々な認知症の新規の予防・治療法の開発につながることが期待されます。

 4-2|認知症の治療 最新研究 抗体医薬(レカネマブ)・超音波治療の治験

アルツハイマー病の治療法に関する研究が今、大きく進展しています。とりわけ抗体医薬品の開発が急速に進んでいることから、2022年11月、認知症関連の6学会は合同で記者会見を開き、新しい治療法への期待と課題を発表しました。

抗体医薬品は、アルツハイマー病で脳に蓄積するアミロイドβというタンパク質を分解する働きを持つものです。レカネマブという抗体医薬品は、アミロイドβを分解するだけでなく、タウタンパク質も減らす効果があることがわかっています。日本では2023年度中にも承認申請が予定されています。

超音波治療は、超音波を頭部に当てることでアミロイドβを分解するというものです。現在、日本では初めての臨床試験が行われており、安全性や有効性が検証されています。

 

おわりに

認知症の周辺症状について、今回はお伝えしました。認知症は、本人だけでなく、家族や介護者にも大きな負担をかける病気です。しかし、周辺症状を早期に発見し、適切な対処をすることで、認知症の進行を遅らせたり、生活の質を向上させたりすることが可能です。認知症の周辺症状に悩んでいる方は、ぜひ医師や専門家に相談してみてください。

このブログ記事は、認知症の周辺症状に関心のある方に有益な情報を提供することを目的としています。記事の内容は、一般的な情報であり、個別の診断や治療に代わるものではありません。記事の内容に基づいて行動する前には、必ず医師や専門家にご相談ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回のブログ記事もお楽しみに!