認知症サポートの道

「認知症と向き合う人々の支え手。認知症の勉強を日々研鑽中。」

【認知症予防】に役立つライフスタイルの8つの方法

脳の健康を保つことは、誰もが望むことでしょう。でも、現代の忙しい生活でそのためのステップを踏むのは難しいかもしれません。そこで考えていただきたいのが、認知症の予防法です。認知症リスク軽減にも効果的な予防法は、脳を活性化し、健康な未来をサポートしてくれるかもしれません。本記事では、そんな予防法を多数紹介します。脳の健康促進と認知症リスク軽減のための一歩を踏み出すきっかけにしていただければ幸いです。

 

1|脳の健康維持における質の高い睡眠の役割と方法

 1-1|認知症予防に必要な睡眠の重要性

認知症は、脳の働きが低下することで起こる病気です。脳の働きを高めるためには、睡眠がとても大切です。睡眠不足は、記憶力や判断力を低下させるだけでなく、うつ病やストレスにもつながります。睡眠は、脳の老廃物を排出したり、記憶を定着させたりする役割があります。睡眠中に脳は休息を取りますが、完全にオフになるわけではありません。睡眠中も脳は活動していますが、新しい情報が入ってこないので、脳にとってはリフレッシュになります。

 1-2|睡眠不足がもたらす悪影響

記憶力の低下

  • 睡眠中に海馬という部分に保管された短期記憶が大脳皮質へと移動して長期記憶になります。睡眠不足になるとこの過程が妨げられて記憶が定着しません。

  • 睡眠不足はストレスにもなりますが、ストレスは海馬にダメージを与えて記憶力を低下させます。

  •  睡眠不足は認知症の発症リスクを高めます。

 

ネガティブ感情の増加

  • 脳が活動すると酸素を消費しますが、睡眠不足になると酸素疲れという現象が起こります。酸素疲れは脳の働きを非効率化させます。

  • 脳の働きが落ちるとネガティブな感情を生み出します。「つらい」「しんどい」といった感情は脳が覚醒していないことが原因です。

  • ネガティブな感情は脳の働きをさらに低下させる負のループを作ります。

モチベーションの低下

  • 脳が覚醒しないと気持ちも沈みます。気持ちが沈むとやる気も出ません。

  • やる気が出ないと仕事や勉強の効率も悪くなります。効率が悪くなるとストレスも溜まります。

  • ストレスは脳の働きを阻害します。脳の働きが阻害されるとやる気も出ません。

 1-3|睡眠の質を高めるためにできること

睡眠時間を確保する

  • 成人の場合、1日7~8時間の睡眠が必要です。睡眠時間を削ると人生の後半を劣化させます。

  •  睡眠時間を確保するためには、夜更かしや徹夜を避けることが大切です。寝る前にスマホやパソコンなどの画面を見るのも控えましょう。

  • 睡眠時間は一定にすることが望ましいです。人間の体にはリズムがありますから、毎日同じ時間に寝て起きるようにしましょう。

心配事を減らす

  • 心配事があると寝つきが悪くなったり、夢を見たり、目が覚めたりします。これは、脳が解決しない案件を整理しようとしているからです。
  •  心配事を減らすためには、寝る前にその日の出来事や翌日の予定を振り返ってみましょう。できれば紙に書いておくと良いです。
  • 心配事を書き出すことで、脳に区切りをつけることができます。脳に区切りがつくと、安心して眠りにつくことができます。

リラックスする

  • リラックスすることで、脳の緊張をほぐすことができます。脳の緊張がほぐれると、睡眠の質も高まります。
  • リラックスする方法は人それぞれですが、お風呂に入ったり、音楽を聴いたり、本を読んだりすることがおすすめです。
  • リラックスするときは、自分の好きなことをしてください。自分の好きなことをすることで、ポジティブな感情も生まれます。

     

     

2|認知症の予防に休暇は効果的?仕事と休息のバランスの重要性

 仕事が忙しくて休暇を取るのが難しいと感じる人は多いでしょう。しかし、休暇を取ることは、認知症の予防にも効果があるということをご存知でしょうか?休暇を取ることで、頭脳、身体、魂の三つの面で健康になれるという研究があります。今回は、その研究を紹介しながら、休暇の取り方やメリットについてお話しします。

 2-1|頭脳

 仕事に追われていると、ストレスや疲労がたまり、集中力や記憶力が低下したり、問題解決能力が落ちたりすることがあります。これらは認知機能の低下と呼ばれ、認知症のリスクを高める要因です。

 休暇を取ると、ストレスや疲労が解消され、頭がすっきりします。休暇中には、質の高い睡眠をとったり、散歩や旅行などで新しい刺激を受けたりすることで、脳の活性化や創造性の向上が期待できます。実際、休暇中に大ヒットミュージカル『ハミルトン』のアイデアを思いついた劇作家もいます。

 また、休暇を計画したり楽しみにしたりするだけでも、気分が上がります。気分が良いと、ポジティブな思考や感情が増えて、認知機能も高まります。逆に、睡眠不足やストレスはネガティブな思考や感情を引き起こし、認知機能を低下させます。睡眠不足は長期的には認知症のリスクも高めます。

 休暇から戻ってくると、思考が明晰になり、集中力や生産性も高まります。これは自分だけでなく会社にもメリットです。ある研究では、休暇が10時間増えるごとに年末の成績が8%向上することがわかりました。また、休暇をすべて消化する人は昇進・昇給の可能性も高くなります。

 2-2|身体

 仕事でストレスを感じると、コルチゾールエピネフリンというストレスホルモンが分泌されます。これらのホルモンは危険な状況から身を守るために必要ですが、常に高いレベルで分泌されると免疫力を低下させてしまいます。免疫力が低下すると風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなるだけでなく、心臓病やがんなどの重篤な疾患のリスクも高まります。

 休暇を取ると、ストレスホルモンの分泌が抑えられ、免疫力が回復します。休暇中にリラックスしたり、自然の中で過ごしたりすると、心拍数や血圧も下がります。また、運動をすることで、心臓や呼吸器の機能を強化したり、骨や筋肉を丈夫にしたり、バランス感覚を高めたりすることができます。これらは認知症の予防にも有効です。マッサージを受けることもおすすめです。マッサージはリラックス効果だけでなく、血行や柔軟性を改善し、筋肉のこわばりや関節の炎症を抑える効果があります。

 2-3|魂

 休暇を取ることは心身の健康だけでなく、魂の健康にも良い影響を与えます。魂とは、自分自身の本質や価値観を表すもので、家族や友人や仕事、そして社会から受ける影響によって変化することがあります。休暇に出かけて仕事から離れることで、周囲の雑音から解放されて本来の自分に立ち返ることができます。

 休暇中には自分の好きなことを自由に楽しむことができます。冒険したり、学びたり、美しいものを見たり、感じたりすることで、自分の価値観や喜びを再発見することができます。また、静かな空間で自分の内なる声に耳を傾けたり、直感を磨いたりすることもできます。これらは人生の大きな問い、「私が本当に求めていることは何か」「私にとって一番重要なのは何か」といったことに対する答えを見つける手助けになります。

 休暇から戻ってくると、自分らしさを取り戻して仕事に臨むことができます。自分らしさを取り戻すと、自信や意欲が高まり、目の前の仕事に集中しやすくなります。また、自分にとって最も意義のある仕事にフォーカスしやすくなります。これはキャリアアップの機会にもつながります。逆に、自分らしさと仕事の間に溝を感じる場合は、仕事を変えることも考えられます。これは雇用主にとって必ずしも悪いことではありません。意欲のない従業員よりも意欲的な従業員の方が生産性が高いからです。

 以上のように、休暇を取ることは認知症の予防にも効果的です。休暇は頭脳、身体、魂の三つの面で健康になれるチャンスです。仕事だけではなく休息も大切にして、バランスの良い生活を送りましょう。

 

 


3|【ぷよぷよ認知症予防】シニア層が楽しめるeスポーツイベント!

皆さんは「ぷよぷよ」というパズルゲームをご存知ですか?色とりどりのぷよを消していくシンプルなルールながら、奥深い戦略性が魅力のゲームです。このぷよぷよを使ったeスポーツイベントが、愛媛県で2023年10月に開催されます。しかも、参加対象は60歳以上のシニア層だけという珍しいイベントです。

eスポーツとは、コンピューターゲームを競技として行うスポーツのことです。最近では、若い世代だけでなく、シニア層にも人気が高まっています。eスポーツは、脳の活性化や認知症予防に効果があると言われています。また、世代や地域間の交流もできるので、孤立やうつの予防にもなります。

今回のイベントは、「ねんりんピック 2023愛顔のえひめ」という全国健康福祉祭の一環として開催されます。「ねんりんピック」とは、高齢者が元気に活動する姿を全国に発信することを目的としたイベントです。今回は、eスポーツを通して、シニア層の生きがいづくりと健康づくりを推進することを目指しています。

イベントでは、トーナメント形式でぷよぷよの対戦を行います。入賞者には県産品がプレゼントされます。メイン会場は松山市愛媛県県民文化会館 真珠の間ですが、西条市宇和島市でもサブ会場が設けられます。離れた場所でもオンラインで対戦できるので、県内各地から参加者が集まります。

ゲストとして、元大相撲力士でタレントの舞の海秀平さんや、ぷよぷよのプロプレーヤー・ぴぽにあ選手が登場します。舞の海さんは、自身もeスポーツに興味があるそうです。彼らと一緒に対戦したり、トークショーを聞いたりすることもできます。

参加資格は「愛媛在住の60歳以上」です。現在参加者を募集中なので、興味のある方はお早めに申し込みましょう。ぷよぷよの経験や腕前は問いません。初心者でも楽しめるゲームです。ぷよぷよでシニア層が白熱のバトルを繰り広げる姿は必見です。

ぷよぷよで脳を鍛えて、認知症予防にもなりましょう。eスポーツでともに歩もう、その先の愛顔へ!

 

 

 

4|耳の健康が【認知症予防】に繋がる



皆さんは、認知症に関心があると思いますが、認知症の予防には耳の健康がとても重要だということをご存じでしょうか。この記事では、女性が一生を通して経験するめまいや耳鳴り、難聴などの症状や原因、対処法について、漢方薬や補聴器などの有効な方法を紹介します。ぜひ参考にしてください。

 

 4-1|めまい症状の漢方的アプローチ

まず、めまいについて見ていきましょう。めまいは、体や周囲がぐるぐる回っているように感じる回転性めまいや、立ち上がろうとすると体がふわふわする非回転性めまいなどさまざまなタイプがあります。原因も多岐にわたりますが、女性はホルモンバランスや自律神経の乱れとも関係して、年代ごとに異なる要因でめまいを起こしがちです。思春期の立ちくらみや月経前症候群PMS)、更年期めまい症などはその例です。また、60歳を過ぎた頃から増えてくるのが良性発作性頭位めまい症メニエール病などの内耳障害です。これらは耳鳴りや難聴を伴うことが多く、平衡感覚を司る耳石(カルシウムの小粒)がはがれて半規管の中を浮遊することや内耳のリンパ液が過剰な状態になることが原因です。

漢方では、めまいの原因を血虚(血液の循環障害)と水毒(リンパ液や組織間液の滞り)ととらえ、これらを改善する漢方薬を用います。例えば、動くとくらくらするめまいや立ちくらみによく効く苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)や、ふわっとしたり雲の上を歩いているような感覚のふわふわしためまいに効く真武湯(しんぶとう)などです。漢方薬は食前や食間に飲むのが一般的ですが、都合により食後に飲んでも効果はあります。また、最後に“湯”という文字が書いてある漢方薬はお湯に溶かして飲むと有効性が高まります。

 

 4-2|めまいの種類と漢方療法:バランスを取り戻す古代の知恵

 

次に、耳鳴りについて見ていきましょう。耳鳴りは実際はない音が鳴っているように聞こえる現象で、多くは原因不明ですが、高血圧、糖尿病、疲労、ストレス、睡眠不足などにより悪化することがわかっています。また、突発性難聴メニエール病などの内耳障害でも起こります。耳鳴りの約4割に牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)が効くといわれています。ちなみに天野先生の耳鳴り解消法は、腹式呼吸だそうです。

最後に、難聴について見ていきましょう。難聴は加齢や大音量を長時間聞き続けることで進行し、一度ダメージを受けた耳の細胞は修復されません。高い音や子音から聞き取りにくくなるのが特徴で、電子レンジや体温計の信号音に気づかない、「基地」と「位置」の聞き違いなどが生じます。血流の悪化もリスクとなり、動脈硬化のある人は高音域の聴力が低下しやすいとの研究結果が出ています。早く気づくためにも、ほかの病気(突発性難聴メニエール病など)との鑑別のためにも定期的に聴力検査を受けましょう。自分に合った補聴器を積極的に使うことは、社会活動や生活の質の維持、ひいては認知症予防に有効です。

以上、女性が一生を通して経験するめまいや耳鳴り、難聴などの症状や原因、対処法について紹介しました。耳は認知症予防にも重要な役割を果たしています。耳の健康を保つためにも、日頃から生活習慣やストレス管理に気を付けましょう。また、何か不安や異常を感じたら、早めに専門医に相談しましょう。漢方薬や補聴器などの有効な方法を活用して、快適な生活を送りましょう。 

 

 

5|漢字で脳活性化!高齢者向け「漢健サロン」



認知症予防には、食事や運動などの生活習慣の見直しが重要ですが、それだけではなく、脳を刺激する学習や趣味も効果的です。今回は、滋賀県守山市で高齢者向けに始められた「漢健サロン」の取り組みを紹介します。

漢健サロンとは、日本漢字能力検定漢検)を使って脳トレを目指すサロンです。漢検は小学生から高齢者まで幅広い年代が受検できる国家資格で、漢字の読み書きや意味などを問うテストです。漢字は高齢者にとってなじみ深い文字であり、手で書くことで脳の活性化につながると考えられています。
漢健サロンの発案者は、元中学校教員で校長も務めたNさん(76)です。Nさんは、2025年に65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になるという予測を知り、高齢者が脳を使って取り組める「学び」として漢字を思いつきました。
漢健サロンは2019年10月に下之郷自治会に働きかけ、自治会館で始めました。現在は23人が月1回程度集まり、テキストを使って書き取り学習をしています。参加者の目標は同会館で受検する漢検に合格することです。
Nさんは指導の際に「良い点は褒め、間違いは明確に指摘する。そして、ユーモーを忘れない」ということを心掛けています。また、サロンのコンセプトは「学び合い」です。受検に備えた模擬テストでは同じく受検予定の小学生も招き、高齢者が採点するなど、世代間交流の場にもなっています。

漢健サロンは守山市内でも徐々に広がりつつあります。昨年秋以降、中川さんの知り合いが講師となり、同市浮気町と赤野井町でも始まりました。また、他自治会で導入の動きも出てきています。誰でも指導役になれるのが魅力で市外からの問い合わせも寄せられています。
Nさんは「高齢者と小学生が一緒に漢字を学び合う場はありそうでなかったと思う」と意義を強調します。「参加者の積極的な姿勢と達成感を見れば、指導するわれわれも元気が出てくる。身近な場所から認知症予防を始めるのが大切」と話しています。
このように、漢健サロンは高齢者にとって楽しく有意義な認知症予防の方法です。漢字は日本人のアイデンティティでもあり、文化的な価値も高いです。漢検は様々なレベルがあるので、自分に合った目標を設定できます。

 

6|脳の健康促進と認知症リスク軽減へ:有酸素運動の力

有酸素運動には、脳内で新たな神経細胞ニューロン)を成長させる効果があります。これは海馬と呼ばれる脳の領域に関連しています。有酸素運動中には、「脳由来神経栄養因子(BDNF)」というタンパク質が分泌されることが知られています。このBDNFは、ニューロンの新生に関与し、海馬内で新しい神経細胞が形成されるプロセスを促進すると考えられています。新しい神経細胞は早く学習し、記憶力を向上させるのに役立ちます。また、既存のニューロンよりも速く海馬回路に統合されるため、脳の機能を改善する効果があります。

さらに、中から高程度の有酸素運動は、認知症に関連する物質であるベータアミロイド斑やタウタンパク質の蓄積やもつれを減少させる可能性があります。これにより、認知症の発症リスクを軽減する可能性が考えられます。

以上の情報から、定期的な運動は脳の健康を促進し、学習能力や記憶力の向上に寄与するだけでなく、認知症などの神経変性疾患のリスクを低減するのに役立つ可能性があるとされています。ただし、医療専門家と相談しながら、適切な運動プランを作成することが重要です。

 

7|認知症予防に効果的な方法は? 老化に関するステレオタイプが記憶力に与える影響



認知症は現在、完治することができません。しかし、予防や進行の遅延に効果的な方法があることをご存じでしょうか? それは、老化に関するステレオタイプをポジティブにすることです。

 

 7-1|高齢者に対するステレオタイプとその影響:認知科学の視点から

 

老化に関するステレオタイプとは、高齢者に対して持たれる一般的なイメージや期待です。例えば、「高齢者は物忘れがひどい」「高齢者は魅力がない」「高齢者は活動量が減る」などのネガティブなステレオタイプがあります。これらのステレオタイプは、メディアや社会から受ける影響で形成されます。
しかし、これらのステレオタイプは、高齢者の記憶力や認知機能に悪影響を与えることが科学的に証明されています。心理学では、自分に関するネガティブなステレオタイプを想起させられることで、そのステレオタイプに合わせてパフォーマンスが低下する現象を「ステレオタイプ脅威」と呼びます。
例えば、ある研究では、62歳から84歳の高齢者と18歳から30歳の若年者に、3種類の偽の新聞記事のうち、1つを読んでもらう実験を行いました。その記事の1つは、典型的な老化による記憶力の低下を強調しており、高齢者は他人に頼る必要があることを示唆するものでした。別の記事では、記憶と年齢の関連について、もっとポジティブな知見が強調されているものでした。3番目の記事は中立的なものでした。

 

 7-2|ステレオタイプが記憶に与える影響:高齢者と若年者の記憶課題への影響

 

研究参加者全員が、30個の単語のリストを2分間学習した後、覚えている単語を書き出すという標準的な記憶課題に取り組みました。その結果、老化が記憶に与える悪影響を強調した記事を読んだ高齢者は、中立的あるいはポジティブな記事を読んだ高齢者と比べて、記憶成績が大幅に低下しました。一方、若年者の記憶成績には記事の内容による差はありませんでした。
この研究は、記憶に関する1つの記事を読むことが、その後に高齢者が受ける単純な記憶課題の成績に影響する可能性を示しています。このようなステレオタイプをつねに耳にしていると、現実世界ではどのような影響があるのかを想像できるのではないでしょうか? そして、そのようなステレオタイプ自体が、高齢者の記憶パフォーマンスの低下につながる可能性があるということもおわかりいただけるのではないでしょうか? これは、私たちのマインドセットのパワーを示す、はっきりとした例です。

 

 7-3|テスト表現の変化が高齢者の記憶力に及ぼす影響:研究結果の分析

 

他にも、テストに対する表現の仕方を変えることで、高齢者の記憶力に影響が生じることが明らかになっています。ある研究では、若年者(17歳から24歳)と高齢者(60歳から75歳)を対象に、雑学テストを実施して、その成績を比較しました。研究参加者全員に「ダチョウの卵をゆでるのには約4時間かかる」「ジェームズ・ガーフィールド(訳注:アメリカの第20代大統領)はアメリカ大統領の中で靴のサイズが最も大きい」など、60個の雑学をランダムに選んだリストを渡して、記憶してもらいました。
研究参加者は、このリストを学習するように指示され、後日、そのリストから無作為に選んだものを使って記憶力テストを行う、ということも伝えられました。ところが、実際は、記憶力テストの性質について、研究参加者の条件群ごとに、微妙に異なる情報を提供しており、これこそが、研究の重要な要素でした。
若年者と高齢者を含むある条件群は、後で記憶力テストを行うので、このリストからできるだけ多くの文章を「記憶」してください、と指示されていました。一方、別の条件群には、「記憶」という言葉は使わず、リストの中からできるだけ多くの文章を「学習」してください、と指示しました。

 

 7-4|年齢と記憶テスト成績:フレーミングの影響とステレオタイプの検証

 

次に、研究参加者全員に同じテストを行いました。テストでは、雑学に関する文章のリストを読んで、その正誤を評価しました。その文章には「ダチョウの卵をゆでるのには約6時間かかる」など、もともとの文章に手を加えて誤りにしたものも含まれていました。研究者は、若年者と高齢者のテスト成績を求めました。
研究者の予想どおり、テストに対する指示の仕方を変えることで、テストに対する指示の仕方を変えることで、テスト成績に大きな差が生じました。学習教示条件では、高齢者と若年者の成績差は認められませんでしたが、記憶に焦点を当てた記憶教示条件では、高齢者の成績は若年者と比べて大幅に低下しました。
これらの結果は、高齢者が若年者と比べて記憶成績が悪いとは限らない、ということを示しています。実際は、高齢者は記憶力が悪い、という老化に関するステレオタイプを、高齢者が確認しようとした場合においてのみ、テスト成績が悪化するのです。
この研究は、心理学の実験によって、テストに対するフレーミング(表現の仕方)が短期記憶テストの記憶成績に影響することを示しています。ただし、この研究は、重要ではあるものの、その効果が大きいということを証明した、とまではいえないかもしれません。

 

 7-5|テストへの異なる情報提示が参加者のテスト結果に及ぼす影響についての研究

 

ところが、テストに対する表現を微妙に変えることによって、臨床的に大きな効果が得られる可能性がある、ということは他の研究からも明らかにされています。
例えば、60歳から70歳の研究参加者を対象としたある研究は、研究参加者の半数の条件群に、「この研究では40歳から70歳がテストを受けているので、この条件群は『高齢者側』です」と教示しました。別の条件群には「この研究は60歳から70歳がテストを受けているので、この条件群は『若年者側』です」と教示しました。
この2つの条件群の研究参加者の半数に「記憶力と高齢者」と題した偽の記事を配布しました。
この記事には高齢者が経験する一般的な記憶障害について説明されていました。それは、約束を覚えられない、よく使うもの(鍵や眼鏡など)を置いた場所を忘れてしまう、記憶のトラブルに対処するためにカレンダーやノートを使って定期的にリマインダーやリストを作成する必要がある、などの情報を記述したものでした。
もう半数の研究参加者には「一般的な能力と高齢者」という記事を配布しました。この記事では、加齢に伴う認知機能の低下について、もっと一般的に説明されていましたが、記憶力については言及されていませんでした。そして最後に、研究参加者全員は認知症の診断に使われる標準的な記憶力テストを受けました。

 

 7-6|ステレオタイプが記憶力に与える影響:年齢と認知機能の関連性を探る

 

研究結果は、記憶成績が悪くなることを予想することが絶大なパワーをもつことを示していました。具体的には、自分は研究参加者のなかで「高齢者」に位置すると信じて研究に参加した人のうち、老化による記憶障害について説明された記事を読んだ人の70%が認知症の診断基準を満たしたのです。
一方、他の3つのグループで認知症の診断基準を満たした人はわずか14%でした。この結果には、同じような年齢の人でも、自分が高齢者だと思うか若年者だと思うかによって、記憶力が大きく変わることがわかります。また、高齢者の記憶力に関するネガティブな情報を与えられると、それが現実になってしまうこともわかります。
このように、老化に関するステレオタイプは、高齢者の記憶力や認知機能に大きな影響を与えます。しかし、その影響は必ずしもネガティブなものではありません。ポジティブなステレオタイプを持つことで、記憶力や認知機能を向上させることができる可能性もあります。実際、ポジティブなステレオタイプを持つ高齢者は、ネガティブなステレオタイプを持つ高齢者よりも記憶力や認知機能が高いことが研究で示されています。

 

 7-7|ポジティブな老化観の育て方: ステレオタイプを活用して自信を高める方法

 

では、どのようにしてポジティブなステレオタイプを持つことができるのでしょうか? その方法はいくつかありますが、ここでは2つの方法を紹介します。

1. ポジティブな高齢者のモデルに触れる

ポジティブな高齢者のモデルとは、高齢者でも活躍している人や素晴らしい業績を残している人などです。例えば、「100歳でマラソンを走った人」「90歳で博士号を取得した人」「80歳でベストセラー作家になった人」などです。これらの人々は、老化とは必ずしも衰退や限界を意味しないことを示してくれます。彼らの話を聞いたり見たりすることで、自分も高齢者でも可能性があることを感じることができます。

2. ポジティブな自己暗示をかける

ポジティブな自己暗示とは、自分に対してポジティブな言葉やメッセージを繰り返し言うことです。例えば、「私は記憶力が良い」「私は年齢に関係なく学べる」「私は高齢者でも価値がある」などです。これらの言葉は、自分の信念や態度を変える力があります。自分に対してポジティブな言葉を言うことで、自信や自尊心を高めることができます。

以上のように、老化に関するステレオタイプは、高齢者の記憶力や認知機能に大きな影響を与えます。しかし、その影響は必ずしもネガティブなものではありません。ポジティブなステレオタイプを持つことで、記憶力や認知機能を向上させることができます。認知症の予防に効果的な方法の一つとして、老化に関するステレオタイプを見直すことをおすすめします。

 

8|eスポーツで高齢者の認知症予防!

 eスポーツとは、コンピューターゲームの腕を競うスポーツのことです。高齢者がeスポーツに取り組むと、身体機能や認知機能が向上する可能性があるという研究があります。

 奈良県川西町の協力で、同町のNPO法人「川西スポーツクラブ」がフレイル予防を目的としたeスポーツ教室を開きました。フレイルとは、高齢者が身体的・精神的に弱ってしまう状態のことです。eスポーツ教室では、テレビ画面の前でゲームのコントローラーを操作して、太鼓やボウリングなどのゲームを楽しみました。

 この教室に参加した12人(平均年齢71・9歳)の身体機能や認知機能は、3か月間でどう変わったでしょうか?以下の表を見てみましょう。

項目  参加前  参加後 変化 
イスから立ち上がって3メートル先まで歩き、
イスに戻って再び座るまでの時間(秒)
 6・1  5・8  ▲0・3
バランス能力などで身体機能を評価する数値(点) 22・5  24・2 △1・7 

 表やグラフから分かるように、参加者の身体機能は全体的に向上しました。特にバランス能力などで身体機能を評価する数値は、平均で1・7点も上昇しました。これは、転倒や骨折などのリスクを減らすことにつながります。

 では、認知機能はどうでしょうか?認知症とは、記憶力や判断力などが低下して日常生活に支障が出る病気のことです。認知症になる前段階として、MCI(軽度認知障害)という状態があります。MCIでは、記憶力などが少し低下しているものの、日常生活には問題がない人のことです。MCIは認知症に進行する可能性が高いため、早期発見・早期対策が重要です。

 参加者の認知機能は以下のように変化しました。

項目  参加前  参加後 変化 
 MCI(軽度認知障害)の人数(人) 6 1 ▲5

 グラフから分かるように、参加前にMCIだった6人のうち5人が正常な範囲に戻りました。これは、eスポーツが認知症予防に効果的であることを示唆しています。

 この研究の分析を行った会社「プリベント」の代表取締役理学療法士のHさんは、eスポーツが高齢者にどんな影響を与えたのかについて、次のようにコメントしています。

「参加者が交流を深めたことで、気持ちが前向きになり、普段の活動も活発になったことが一因ではないかと思います。eスポーツは、身体的にも精神的にも刺激を受けることができるので、高齢者の健康維持や向上に役立つと考えられます」

 eスポーツは、若者だけでなく高齢者にも楽しめるスポーツです。高齢者の認知症予防にも効果が期待されるeスポーツに、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか?

 

 

 

おわりに

認知症の予防法は多岐にわたりますが、自分にあった予防法が見つかるように今後も情報の提供をして行きますので是非ご期待ください。