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「高齢ドライバー増加」は事実ではない!精神科医が「シニアの運転免許返納は問題」と語る背景とは?

高齢者の運転は危ないと思っていませんか?実は、そんなことはありません。医師の和田秀樹さんは、高齢者の運転免許を返納させるのは間違っていると言います。その理由とは何でしょうか。

 

 

1|高齢者が増えても死亡事故は減っている

 

高齢者が運転する車が暴走して人をはねたり、建物に突っ込んだりするニュースを見ると、高齢者の運転は危ないと感じますよね。でも、これは珍しいことだからニュースになるのであって、よく起こっているわけではありません。

実際には、高齢者が起こす死亡事故は減少傾向にあります。警察庁の統計によると、2009年に75歳以上による死亡事故は422件でしたが、2019年は401件に減りました。そのうち80歳以上が起こした事故も180件から224件に増えたものの、高齢者で免許を保有する人はこの期間に約2倍に増えています。

つまり、高齢者の免許人口が2倍になっても、死亡事故自体は減っているということです。これは高齢者の運転技術や判断力が向上したり、車の安全性が高まったりしたことなどが要因と考えられます。

 

 

 

2|高齢者より若者のほうが事故率が高い

では、高齢者は若者よりも事故を起こしやすいのでしょうか。これも実際にはそうではありません。警察庁の統計で、免許所持者を年齢別に見てみましょう。人口10万人当たりの事故件数(死亡事故ではなく全ての事故)が最も多いのは16~19歳で1500件です。次いで20~24歳で876件、25~29歳で624件となっています。

一方、高齢者では70代で500件前後、80代前半でも604件です。確かに若干増加しますが、それほど大きな差ではありません。死亡事故を起こす確率も、高齢者だから高いわけではありません。

つまり、「高齢者の運転は危ない」というイメージに数的根拠はないということです。「頭がいい人」は、感覚や感情ではなく、データに基づいて考えます。ネットで検索すれば、データは簡単に見つかります。自分の信じたい情報だけを集めるのではなく、客観的な情報を集めることが大切です。

3|高齢者が運転をやめると要介護になりやすい

それでも、高齢者が運転すると他人に迷惑をかけると思っていませんか。確かに、高齢者が起こす事故はインパクトが大きく、ニュースになりやすいです。しかし、それはごく一部の例であり、高齢者の運転を一律に否定することはできません。

実は、高齢者が運転をやめると、自分自身にも悪影響があるのです。筑波大学などの研究チームが65歳以上の男女約2800人を追跡した調査によると、運転をやめた人は、運転を続けた人に比べて6年後に要介護になるリスクが2.16倍になっていました。

これは、運転をやめると外出が減り、生活の自由度が低下し、老化が加速するからです。バスや自転車に切り替えた人も要介護リスクは1.69倍高くなっていました。運転は脳機能や運動機能を維持するためにも有効です。

もちろん、認知症や身体的な障害がある場合は運転を控えるべきですが、高齢だからという理由だけで運転免許を返納する必要はありません。特に地方では、自家用車がないと生活できない場合も多いでしょう。高齢者の運転を支援する制度や施設も充実してほしいですね。

4|運転免許を返納するかどうかは確率で考えよう

さて、高齢者の親が運転免許を返納するかどうか悩んでいる人もいるかもしれません。その場合はどうすればいいでしょうか。

その際に私が必ず話すのは、「確率で考えてみましょう」ということです。

「あなたの親御さんが免許を持ち続けていて、来年死亡事故を起こす確率はおよそ1万分の1です。そのうち他人を死亡させる事故は2割なので、来年他人を死亡させる確率は5万分の1です。これは50~60代の人とほとんど変わりません」

この確率は低いと思いますか?それとも高いと思いますか?保険に入っている人は多いでしょう。保険というのは、確率の低いことが万が一起こったときに備えるものです。5万分の1の確率というのは、自分にとって都合のいいように感じるものです。5万分の1という確率が低いと思う人もいれば、高いと思う人もいます。しかし、それは自分の感情に基づいているだけで、客観的な事実ではありません。

例えば、宝くじに当たる確率は約600万分の1です。これは非常に低い確率ですが、それでも毎回多くの人が宝くじを買います。なぜでしょうか。それは、宝くじに当たることが自分にとって都合がいいからです。当たれば大金を手に入れられますからね。

逆に、飛行機事故に遭う確率は約1000万分の1です。これは宝くじよりも低い確率ですが、それでも飛行機に乗ることを恐れる人がいます。なぜでしょうか。それは、飛行機事故に遭うことが自分にとって都合が悪いからです。遭えば命を落とすかもしれませんからね。

このように、確率は感情に左右されやすいものです。しかし、感情ではなくデータで考えることが大切です。高齢者の運転免許を返納するかどうかも同じです。

高齢者が運転することで他人を死亡させる確率は5万分の1ですが、運転をやめることで要介護になる確率は2倍になります。どちらが自分や親御さんにとって都合がいいでしょうか。

もちろん、事故を起こす可能性がある以上、運転をやめたほうが安全だという考え方もあります。しかし、それは絶対的な安全を求めることであり、現実的ではありません。

何歳でも事故を起こす可能性はありますし、事故を絶対に起こしたくないなら運転しないほうがいいでしょう。しかし、それでは生活や社会とのつながりが失われてしまいます。

高齢者の運転免許を返納するかどうかは、自分や親御さんの状況や希望によって決めるべきです。ただし、その際には感情ではなくデータに基づいて考えてみてください。そうすれば、「頭がいい人」のように賢明な判断ができるでしょう。